紹介文
中外医学社ホームページより
切迫早産管理が180度変わるほんとうのEBMをお伝えします
対象はこんな人
産科領域に興味がある人
根拠に基づいて周囲の慣習を変えていきたい人
目次
- 切迫早産とはどういった病気か
- リトドリン塩酸塩の歴史と現状
- エビデンスはどうなっているだろう
- これまでの経験とめざすべき治療の実際
- リトドリン長期投与をやめるためのステップ
- ひとを変える、組織を変える
- 医療倫理の観点から
- 切迫早産について最後にもう一度考える
感想
著者の室月淳先生はリトドリンの長期投与に関して以前から問題提起されてきた先生です。
日本では切迫早産といえばリトドリンと安静。
マンガ「コウノドリ」でも切迫早産で長期入院を余儀なくされる妊婦の話がありました。
入院中はトイレすらベッドの上でするように指示された、という話を私の周囲でも聞いたことがあります。
切迫早産のケアが欧米と大きく違うということが薬剤師の間でも広く知られるようになったのは、
2013年の欧州医薬品庁(EMA)の勧告ではなかったでしょうか。
「経口剤は承認取り消し」「注射剤は最大48時間」という勧告を日本での現状と比較して驚かれた方も多いと思います。
私も驚いた一人です。
2013年10月の医薬品安全性情報Vol.11,No.21へのリンクを貼っておきます。
https://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly11/21131010.pdf
それに対して、ウテメリン販売元のキッセイ薬品とPMDAの調整結果が2014年に出ました。
結果は、「今まで通り」。
なんで?と思いました。
メーカーの案内文書も出ましたが、イマイチ納得できない。
https://med.kissei.co.jp/vcms_lf/re247001.pdf
ただ、日本では延々と出産直前まで投与され続ける状況があり、
いきなり48時間以内にしろと言われても「投与中止して産まれちゃったらどうしてくれる!」という声があがることは容易に想像ができます。
こういうときに産科ガイドラインとかががっつり書いてくれると意識も変わりやすいかと思うのですが、
どうにもマイルドな記載です。
長くなりましたが、そんな状況の中、勧告が出る前からずっと声を上げ続けていたのが室月先生です。
Twitter(X)でずっと活動を拝見していました。
実際、投与中止しちゃってその後の管理はどうするのか、
リトドリン長期投与が当たり前の環境を一人でどう変えていったのか。
そのあたりがずっと気になっていましたが、それにこたえてくれたのがこの本です。
前半はリトドリンや安静のエビデンス、
後半はどうやってリトドリンを組織として中止していくかが述べられています。
なかでも秀逸なのはChapter6の「ひとを変える、組織を変える」。
これまでよかれと思って行ってきた治療がエビデンスが無いと伝えたところで、
それを受け入れてもらうことはできるのか。
どうやって受け入れてもらい、行動を変えていくのか。
これはただの産科医療にとどまる内容ではなく、
医療におけるチームビルディングの内容です。
産科に縁がない方でも、この章だけは読んでほしい。
そう思わせてくれる内容でした。
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医療における組織づくりの良書