本のそでから
「火」というきわめて身近な化学的現象がある。
世界史(人類史)上、最初に人類が知った化学的現象は、おそらくは「火」であった。
火は、「燃焼」という化学反応にともなう激しい現象である。
原始の人類は、自然の野火、山火事などに、他の動物と同様に「おそれ」を抱いて近づくことはなかったのだろう。
しかし、私たちの祖先は「おそれ」を乗り越えた――
目次
第1章 すべての物質は何からできているのか?
第3章 万物をつくる元素と周期表
第4章 火の発見とエネルギー革命
第5章 世界でもっともおそろしい化学物質
第6章 カレーライスから見る食物の歴史
第7章 歴史を変えたビール、ワイン、蒸留酒
第8章 土器から「セラミックス」へ
第9章 都市の風景はガラスで一変する
第10章 金属が生み出した鉄器文明
第12章 美しく染めよ
第13章 医学の革命と合成染料
第14章 麻薬・覚醒剤・タバコ
第15章 石油に浮かぶ文明
第16章 夢の物質の暗転
第17章 人類は火の薬を求める
こんな人におすすめ
歴史好きな人にも、歴史はちょっと…という人にもどちらにもおすすめ。
「ヒト」ではなく「モノ」を中心に歴史を見るというのが新鮮です。
この本の推しポイント
「モノ」を中心に見ていく歴史ではあるのですが、
「モノ」をよく使うのも悪く使うのも「ヒト」なわけで、
「モノ」を通して「ヒト」への興味がむくむくと湧いてくるところ。
雑記
「化学」が世界をどのようにかかわってきたのかを優しい語り口で読める本です。
前半の、アリストテレスや周期表の発見などの話も面白いのですが、
やっぱり薬剤師として馴染みがあるのは第12章の「美しく染めよ」以降でしょうか。
染料にはじまって医薬品、農薬、合成繊維などの発展、
一方で違法薬物の蔓延や化学兵器・核兵器など負の使われ方への広がりは
歴史があまり得意とはいえない私でもぐいぐいと引き込まれます。
「モノ」をどう使うかは「ヒト」次第である、ということがよく分かります。
薬もそうですよね。
上手に使って有用とするか、悪用して毒とするかは「ヒト」次第。
ここで出てくるのがやっぱりハーバー・ボッシュ法でその名を遺すドイツ人科学者、フリッツ・ハーバー。
アンモニアの合成でノーベル化学賞を取った一方、化学兵器の父の異名がある方ですね。
フリッツ・ハーバーがどんな方かは以前紹介した「天才の光と影」をどうぞ。
天才も一人の人間である「天才の光と影 ノーベル賞受賞者23人の狂気」 - 薬剤師がマインドマップ風に読んでみた
アンモニアが合成できたことで肥料ができるようになり、
世界の食糧生産を支えて人口維持に大きく寄与していることは紛れもない事実です。
一方で、「化学兵器で戦争を早く終わらせれば結果として多くの人命を救える」との言い分で、
多数の人々を毒ガスの脅威にさらしたということもこれまた事実。
上記書籍の通り、まさに一人の人間の光と影を見せつけられているように思います。
彼はどこかの時点で毒ガスについて後悔したことはあるのでしょうか。
晩年のフリッツ・ハーバーが生きた時代のドイツはヒトラーが支配するようになります。
ハーバーはユダヤ人であったために追放されることになりますが、
ハーバー・ボッシュ法のもう一人、カール・ボッシュは
「ユダヤ系の科学者を追放することは、ドイツから物理と化学を追放することである」と抗議します。
それに対するヒトラーの答えは
「それならば、これから百年、ドイツは物理も化学もなしにやっていこうではないか」というものでした。
世界の科学をけん引してきたドイツが!「物理も化学もなしにやっていこう」とか言い放ってしまう!
この本で一番衝撃的だったのがヒトラーのこのセリフでした。
時の政権によって科学もねじまげられてしまう。
私は、現代でもアメリカで似たようなことが起こりつつあるのではないかと危惧しています。
反ワクチン派とされるケネディ氏の厚生長官への登用、
CDC・NIH・FDAに対する姿勢など、公衆衛生上大きな懸念があると思います。
日本だって人のことは言えません。
明らかに非科学的なことを主張し続ける人物が議員として活動しています。
科学だって誤ることはあります。
それを修正して、省みて、先に進めることで科学は発展していくんです。
それを理解するために、科学史を学ぶことを必修にしてもよいと思うのですがいかがでしょうか。
少なくとも行政を動かすような権力を持つ方にはぜひ科学史を学んでほしいと思います。
