認知症とはなんと残酷なのか「義父母の介護」「全員悪人」

 

血管性認知症の家族がいます。

いつも元気でフットワークが軽くて、

優しくて、よくしゃべる人でしたが

脳出血を起こしてから

車いす生活になり、排泄も介助が必要になりました。

周囲でみていて何よりもしんどいのが、

性格が全く変わってしまったように思えること。

 

それまでの彼女であれば絶対に発しなかったであろう、

周囲の人や介助してくれる方への暴言、

卑猥なことばの連発。

「なんでこんなこと言うの?」

「なんで?」「なんで?」が頭の中をぐるぐる回ります。

子育てならば「こういう時期もあるよね」とやり過ごせるかもしれません。

でも介護は終わりが見えない。悪くなる未来しかみえない。

 

我が家のことで精いっぱいで他人の介護の話なんて読みたくない!

と思いつつ、村井理子さんが書いたということで読んでしまったのがこの本。

 

村井理子さんは翻訳者であり双子のお母さんです。

翻訳者なんだけど、日記がめちゃくちゃおもしろいんです。

今は2ヵ所で掲載されてるのかな。

村井さんちの生活 | 村井理子 | 連載一覧 | 考える人| シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。知の楽しみにあふれたWebマガジン。 | 新潮社

ある翻訳家の取り憑かれた日常 - だいわlog

 

子育ての様子は「ふたご母戦記」で壮絶な戦いが描かれています。

「義父母の介護」は「何かがおかしい」から始まった8年間が

村井さんの勢いのよすぎる文体で赤裸々に書かれています。

 

村井さんの義父母さん、「ふたご母戦記」にも出てくるけどもともと超強烈。

そして時を経て義母がレビー小体型認知症に、

義父は脳梗塞を発症して介護が必要な生活となります。

これだけで「あ…無理…」ってなりますよね。

事実は想像のはるか上を通っていきます。

「義父母の介護」を読み進めると他人事なのに、

全速力で逃げ出したくなる。

 

私は「ぽたぽた焼き」のおばあちゃんのように

穏やかに老いていくのが理想なのですが、

血管性認知症の家族や、村井さんの文章を見ていると

「老い」とはもっと複雑で、老いていく本人もきっと苦しくて、

周りもとても苦しくて、きれいごとではないと考えさせられます。

 

「義父母の介護」とセットで読んでほしいのが、「全員悪人」です。

全員悪人

全員悪人

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「義父母の介護」が介護する村井さんからみたルポルタージュなのに対して、

「全員悪人」はレビー小体型認知症の義母さんの目線で書かれた本。

 

「義父母の介護」で読んだ義母さんのありえないと思える行動が、

「全員悪人」で義母さん目線で語られることで種明かしのように読めます。

 

知らない女が毎日家にやってきて、勝手に自分のキッチンを使うから腹が立つ。

夫がそっくりロボットに入れ替わっていて、

そのロボットが悪いことばかりするから

寝ているロボットに向かってテレビのリモコンを振り下ろす。

行動には全て理由がある(という風に描かれています)。

全て理由がある行動だからこそ、

そしてその理由は明確には周囲には伝わらないからこそ、

いや伝わってもどうしようもないからこそ、本人も周囲もしんどい。

これが義母さんの感じていることとして本当なのかは分からないけれど、

そうつじつまでも合わせないとやってられない。

とはいえ辻褄が合っても楽になるものでもない。

 

認知症とは、なんて残酷な病気なんでしょうか。

 

認知症はね、大好きな人を攻撃してしまう病なんですよ。すべて病がさせることなのです。

 

上記は「全員悪人」のあとがきに書いてあることばです。

すべて病がさせることだとはわかっていても、

なかなか割り切れるものではないし

大好きな人が変わってしまうのは本当につらい。

 

でも病なのであれば、いずれ治せる手段や薬が見つかるかもしれません。

少しでも早くその日が来るよう、希望をこめて

業界の片隅で医療の発展のお手伝いをしていきたいと思います。

 

 

 

ところで村井さんの義母さんが認知症の診断を受ける数日前には、

村井さんの実のお兄さんが突然死したとの連絡があって

頭のなかは八割が兄の葬式、そして二割が義母の介護認定

ととんでもない状況がさらっと書かれてます。

「実のお兄さんが突然死した話」は「兄の終い」という別のエッセイになっています。

2025年11月には「兄を持ち運べるサイズに」というタイトルで映画化もされます。

「老い」とはまた違う観点の「孤独」をひしひしと感じる本です。

兄の終い

兄の終い

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『兄を持ち運べるサイズに』11月28日(金)全国ロードショー 脚本・監督:中野量太(『浅田家!』)

 

どの本も読んでいる間は村井さんの勢いのよい文章で意外とすんなり読めてしまう。

なのに読み終わってから反芻して考えをめぐらさざるを得なくなる、

本自体は全然分厚くないのに中身が分厚い本たちです。

 

村井理子さん、今年の7月から毎週火曜日に日経新聞で連載も持っています。

半年の予定だそう。

今のところ、「義父母の介護」をなぞったような介護まわりの話題多めです。

まさかの高齢者介護 エッセイスト・村井理子 - 日本経済新聞