あの日、大教室に女子は数人だった―「なぜ理系に女性が少ないのか」

工学部の受験会場で、

階段状の大教室に女子は数えるほどでした。

分かってはいたけれど、

これから私が進む場所はこういうところなんだ、と思い知らされた気がしました。

 

これは30年近く前の私のできごとです。

私はもともと工学部志望でした。
けれど最終的に進んだのは薬学部です。
日程の都合で1校だけ受けた薬学部に合格し、

「資格も取れるし、大好きな化学も学べるなら」と進路を変えました。

 

30年近く前のあの光景は、今はどう変わったのだろう。

ということで読んだのが「なぜ理系に女性が少ないのか」という新書です。

2022年時点で、

OECD(経済協力開発機構)加盟国中、日本の理系女性学生の割合はなんと最下位です。

工学・製造・建築領域では16%(OECD平均26%)、

自然科学・数学・統計学領域で約27%(OECD平均52%)。

私が大学を受験した頃と大きくは変わっていないようです。

 

この本では「なぜ理系に女性が少ないのか」という問いに対する答えを

様々な調査結果を使って示してくれます。

私自身のn=1のデータではないです。

 

まず、声を大にして言いたいのは

理系に女性が少ないのは「能力の違い」で説明できるものではない!

 

様々な要因が挙げられていますが、

この本を読んで私が特に印象に残ったのは次の3点です。

  1.  思い込みは幼少期に作られる
  2.  学問のイメージは社会が作っている
  3.  女子の進路は「自由選択」ではなく構造に影響される

1.思い込みは幼少期に作られる

「算数は男子のほうができる」という思い込みもすでに6歳くらいでできあがっている

衝撃じゃないですか?6歳って!

小学校に入るか入らないかの頃に、もうそんな意識があるとは。

周囲からの「女の子なのに算数ができてすごいね」という声かけで「女の子なのに」という言葉に気持ちを削がれて意欲が低下する

というのは今もありがちかなと思います。

2.学問のイメージは社会が作っている

バービー人形やリカちゃんはかつて算数が苦手という設定だった

リカちゃんは2023年に公式ツイートで必死に「算数苦手」のイメージを払拭しようとしています。

一方で物理といえば男性、物理といえば戦いや戦争、というイメージは再生産され続けています。

例えば仮面ライダービルド(2017年)。

主人公は天才物理学者です。戦いになると数式を書いて武器を開発する、という設定です。

3.女子の進路は「自由選択」ではなく構造に影響される

そもそも、高校で女子が物理を選択、しづらくなかったですか?

物理が選択できないと、工学部とかはだいぶ受けづらくなります。

化学だけでも私立だったら受けられるけどさ、

私の時代は国公立の大部分や早稲田・慶應は化学と物理の2科目が必須でした。

高校で物理を選べないと、国立や早慶は受けられない。

 

ただ闇雲に「理系の女性の人数を増やす」でなく、

「女性の理系進学を阻む要素を取り除く」がこれからの日本に求められています。

女性が誰の目も気にすることなく、自分の好きなものを好きって言える。

なぜ令和のこの時代にそれができないのでしょうか。

 

この本を読みながら、思いだして苦しくなったのが高校時代の科目選択です。

私の高校では高校2年で生物・物理・地学から1科目を選択することになっていました。

物理を選択すると、40人クラスに女子は3~5人くらい。

当時の私は、そのクラスに入る勇気がなく生物を選びました。

物理を選ばなければ受験できない大学があることは分かっていました。

それでも、物理を選ぶことができなかった。

だから物理は塾で独学を試みましたが、挫折しました。

 

そして化学のみで受けられる工学部を受験した日のあの光景。

分かってはいたけど、女子は圧倒的マイノリティでした。

 

さらに思いだしたのが「仮面ライダーゴースト」(2015年)のヒロイン。

(仮面ライダーネタばかりですみません、男の子の親でもあるもので…)

このヒロインは物理を学ぶ大学生でした。

「世の中の全ての出来事には必ず説明できる法則がある」が持論で、

怪現象を見ても認めない。

強気で正論ばかりぶちかます、理系ステレオタイプを絵に描いたような女の子なんです。

まー、かわいげがない!と思って途中離脱した作品なのですが、

「物理を学ぶ女子」がこういう風に見られてるんだな、

そして私もそんな女の子をみてかわいげがない!と思ってしまう

という事実が嫌だったんです。

 

一方で、私が進んだ薬学部というところは理系の中では比較的女性が多い領域です。

化学・物理・生物などを横断的に学ぶ内容ですが、なぜか女性が多い。

この本によると親が女子の進路として最も賛成しやすいのは薬学だそうです。

「資格が取れる」「ライフイベント後も復職しやすい」といったイメージに加え、

すでに女性のロールモデルが多いことも影響しているようです。

結局、学問のイメージなんて学問そのものでなく社会的にどう見られてるか、

で形作られているということがよく分かります。

 

でも、ちょっと待ってください。

日本薬剤師会、日本病院薬剤師会の会長に女性が就いたことはこれまでありません。

日本薬学会は140年以上ある歴史の中で昨年初めて、女性がトップとなりました。

女性が多い薬剤師や薬学部の世界でこれって、違和感ないですか。

 

そもそも薬学部って卒業までに6年かかるし、

晴れて薬剤師になれたとして、

日本という国はこれから薬剤師をどうしていきたいのかが昨今よく分かりません。

製薬会社とて今の薬価制度ではもう罰ゲームのような状態です。

「結婚・出産しても働ける」というメリットもいつまで続くか分かりません。

 

今まで薬学のおもしろさを散々書いてきた私ですが、

薬学だけでなく他の理系もおもしろいよ!

世間のイメージとか就職のしやすさだけで決めちゃうのはもったいないよ!

と言いたいです。

 

私が高校生だったのはもう30年近く前。

この本を読む限り、今も当時と状況は大して変わっていません。

一刻も早く、この本の内容が「昔の話」と言われるようになってほしい。

少なくとも、娘には「女の子には理系は向いていない」なんて意識を持ってほしくない。

強くそう願います。

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