薬剤師の役割の中で大切なこととして、くすりに関する科学的な内容をかみくだいて患者さんに伝える、そしてくすりを正しく使うという行動に移してもらうということがあると私は思っています。
その観点では、薬剤師の仕事とはある意味サイエンスコミュニケーターとも言えないでしょうか。
この本はアナウンサーからサイエンスコミュニケーション研究に転身された桝太一さんと山中伸弥先生をはじめとする著名な科学者の1on1の対談を7つ収録したものです。
各対談は10ページくらい、それぞれサイエンスコミュニケーションとは何か、というテーマで対話がされています。
専門分野のことを語っているわけではなく、どんな風に科学のおもしろさを伝えていくか、という観点で対談されてるのでテレビのインタビューを見てる感じで読み進められます。
そしてそれぞれの対談で、印象に残る箇所がそこかしこに出てきます。
例えば国立科学博物館の館長の篠田先生との対談では「世の中はわからないことばかりです。そこをいかに説明するかが難しい」という言葉が出てきます。
くすりに関して、薬理作用だけ見てもはっきりと薬理作用が解明されているくすりがどれだけあるか。副作用の発現機序が判明しているものがどれだけあるか。
調べれば調べるほど、わかっていることのほうが少ないのではという気がします。
「機序不明」のひとことをどのように説明して、納得してくすりを使ってもらうか、まさにサイエンスコミュニケーションではないでしょうか。
また、サイエンスライターの佐藤健太郎氏との対談では小説家・医師の海堂尊さんのエピソードが出てきます。
「医師というのは人の心と向き合い続ける職業であるため、客観的な物事の見方をする理系の感覚よりも文系的な感覚が大切だと(海堂氏が)おっしゃっていた」とあります。
くすりを使うのは人間であり、頭で納得しても最終的に心が納得しないと行動には移せない、その背中を押してあげるのも薬剤師の仕事かなと思います。
薬剤師として自分がもつ専門知識をどのように伝えて、どのように行動までもっていくのかという点を考えさせられる1冊でした。
ただ、東京化学同人という出版社だからこそかもしれないですが、表紙が地味すぎませんかね。
もうちょい化学式入れるとか、結晶のきれいな写真載せるとか、華やかにできなかったんだろうか。
これまた日本薬学会の「ファルマシア」に書評が載ってたのでリンク貼っときます。
なんだかこの前の「禁断の植物園」といい、ファルマシアと気が合うな…