本の紹介
話題を呼んだ毎日新聞「理系白書」のエース記者による初エッセー集。
ノーベル賞の楽しみ方やロケットのお値段、学力問題から食の安全まで。
科学の現場から見たニッポンの現在・未来。
(amazonより引用)
目次
- 理系と文系のあいだ
- 未来の住みごこち
- 科学記者の現場
- 女は科学に向かないか
- 科学大国はどこへ
こんな人におすすめ
人の日記を読むのが好きな人
ライトに科学全般の話題に触れたい人
感想
人の日記がまとめられた本を読むのが好きです。
翻訳家の村井理子さんの「村井さんちの生活」とか大好きです。
この本は毎日新聞の記者さんが
科学のおもしろさ、不思議さ、科学的なものの見方を知ってもらうというスタンスで
週1回連載したコラムをまとめたものです。
正確には日記ではないし、そもそも日付順に並んでもいないのですが、
なんとなく人の日記を読んでいるような気分になります。
発行が2007年とだいぶ前なので出てくる科学系のできごとが
冥王星が太陽系から外れた、だったり病気腎移植だったり、
あった!そんなことあった!のくり返しです。
さすが記者!という読みやすい文章で、内容は重いものもあったりするのですが
1つ1つのコラムは短くて「天声人語」を読むくらいのスタンスで読めます。
ところどころ、「毎日新聞くささ」のような主張が見え隠れするのは
ご愛敬ということで。
この内容でなぜ「理系思考」というタイトルをつけたんだろう?
この本は決して、理系でものを考える、という内容ではありません。
「理系思考」と正面に書かれると自称文系の人はちょっと引いてしまうんじゃないか。
その点で、タイトルの付け方がもったいないと思います。
第一章のタイトルの「理系と文系のあいだ」くらいでよかったんじゃないのかな。
タイトルは置いておいて、この本で印象に残った箇所が2つあったのでご紹介します。
1つは「はじめに」に記載されている文章です。
文系の心を持ち、理系の頭で考えるというのが、複雑な世の中をしたたかに生きていくにはちょうどいい。
好奇心や情を持ちつつ、
謎や困りごとを解決するための技術や知識、論理力を併せ持つ、
これが私が目指すスタンスそのものです。
技術や知識を自分で持つのはたぶん難しいけれど、
そこにたどり着くまでの調べ方や手がかりを持っておきたいです。
もう1つは、「コトつくり」という項に載っている文章です。
社会人として生きていくには文系も理系もない。理系の研究者とて、社会や歴史を知らずに研究は進められないし、自分の意志を上手に伝える能力がなければ、研究費もままならない。文系出身だからといって、科学や技術に無知だと安全な暮らしは保証されない。
高校で文系と理系に分かれても、大学を卒業して一人の社会人になったら
そんな区分は全く意味がないんです。
研究費を得るためには様々な場で、
自分の業績を文章や口頭でアピールする必要があります。
トップの研究者は文章を書くのがとても上手、かつ速い方が多いです。
研究者じゃなくても、社会人として働く以上、人に何かを伝える能力が必要になる。
適切に伝えるためには、
状況によっては歴史や地理、政治経済などの知識が必要になる。
理系だから、薬学部に行くから、薬剤師だから、
○○は不要、なんてことはないんです。
視野を広く持ちつつも、専門性を高めるというのはできるはず。
アンテナは広く張っておきたいなと思います。
私は理系、あなたは文系、ではなく、
「たこ」という一人の人間として、
「薬学の知識も持った」大きな器の人間になりたいです。
「コトつくり」の項ではもう一つ興味深いエピソードも紹介されていました。
大学が高校生向けの学校説明会で
「環境を勉強したい、どの学部に入ればよいか」と聞かれて、
全学部の担当者が手を挙げた、という内容です。
環境って複合領域だからそうなりますよね。
薬学部も理系を幅広くカバーしていて、化学も生物も、
もちろん医療系の知識も学べます。
友人は分析化学の研究室で環境問題に首を突っ込んでいました。
卒論でロボットの研究をして、工学部の大学院に進んだ友人、
薬学史の研究をして文学部の大学院に進んだ先輩もいます。
私は薬用植物園に入り浸りつつ、卒論でなぜか漢文と格闘しました。
薬学部を卒業したからって、
医療現場の薬剤師にならなくてもいい、と思います。
薬学部を卒業してから活躍できるフィールドは想像以上に広いです。
6年という就学年数と、私立の場合は授業料が許容できれば、
理系全般に興味があってどれか一つにしぼりきれない!という方に
薬学部はとてもおすすめです。
よければこちらもどうぞ
薬学部は理系なのか?「理系あるある」 - 薬剤師がマインドマップ風に読んでみた
理系科目で受験はするが文系スキルが大いに求められるのが薬学部。
薬剤師は街のサイエンスコミュニケーター? 「桝太一が聞く 科学の伝え方」 - 薬剤師がマインドマップ風に読んでみた
「理系思考」著者の元村有希子さんは現在大学で
サイエンスコミュニケーションを専門として特別客員教授をされているそうです。
腑に落ちない「女子のための一生困らない「手に職」図鑑」 - 薬剤師がマインドマップ風に読んでみた
「資格が取れるから」だけで薬学部に進むとたぶん辛い。
どんなキャリアを積んでいく?「薬剤師の新しいキャリアデザイン戦略」 - 薬剤師がマインドマップ風に読んでみた
一旦医療現場の薬剤師となった方が、次のステップを考えるときに読みたい本。
文章が書ける理系になれる!「これで書ける!理系作文の鉄則46」 - 薬剤師がマインドマップ風に読んでみた
こんな本が出るくらい、「文章が書ける理系」というのは求められてるんです。
今回の記事で紹介した本。犬好きにおすすめ。