「はじめに」より引用
この本を通じて、新型コロナウイルスのような古くて新しい感染症とつき合っていくための方法を一緒に考えていくことができれば幸いです。
対象はこんな人
一般市民向けの本ではありますが
一般市民ではなく、天然物化学好きな薬剤師におすすめ
目次
- 第1章 知っておきたい薬の基本
- 第2章 感染症と薬のたたかい
- 第3章 薬と成分
感想
この本の発行は2020年10月。
コロナ禍の前から出版の話はあったのだと思いますが、
第2章の感染症関連にはだいぶ力が入っています。
さて、第1章から読んでいくわけですが、なんだか違和感があります。
一般向けの本って、薬剤師の立場から見ると
「うんうん、知ってるよ」というものが多いはず、
というか全部知ってなければ困るわけですが、
1ページ目からいきなり知らない言葉が出てきます。
「グラヤノトキシン」ってご存じですか…?
アセビやレンゲツツジに含まれる強心配糖体だそうです。知らなかった。
薬は毒にもなる、という説明で例に出されているのですが、
薬剤師がこの話題でよく例に挙げるのはジギタリスではないでしょうか。
読み進めていくと、どうも植物関係の話で深く説明している箇所が多い。
「アレロパシー」って言葉の解説とか「植物がカフェインをつくる理由」とか、
天然物化学関係の説明が至る箇所にあります。
というのもこの本の著者は農学部にルーツのある方のようです。
一般向けの本と侮ることなかれ、
薬剤師であっても薬に関係する植物・天然物関係の知識を深めたい方におすすめです。
センブリの苦み成分とその胃腸への作用機序なんてなかなか調べる機会ないですよ!
一方で、薬にかかわる一般的な知識に関してはちょっと危うい印象を受けます。
例えば相互作用の説明の項。
牛乳で飲んではいけない薬がある、というところまではいいんです。
高血圧の薬のうち、「カルシウム拮抗薬」、「スタチン系」と呼ばれる高コレステロール血症の薬を牛乳といっしょに飲むと、体内濃度が上がって副作用が現れることがあります。
ん…?
CCBやスタチンで牛乳と相互作用があるやつって何かありましたっけ…
そこはあの抗菌薬を挙げてほしかった。
第3章では実際に薬の商品名・一般名をあげて各疾患の薬を説明しているのですが、
ここでも薬剤師の認識とは若干のずれがある気がします。
たとえば「腸の薬」として、
植物性便秘治療薬、合成便秘治療薬、活性生菌製剤、正露丸、陀羅尼助・百草が見出しに挙げられています。
そもそも便秘治療薬に関して
「植物性」「合成」という分類はあまりしないと思うのですが、
それと同列に正露丸や陀羅尼助がならんでいることに違和感があります。
医療用の薬の説明をしてるのかOTCも含めてなのかどっちなんですか。
そもそも正露丸をここで取り上げることに(以下自粛)
「抗生物質」という項もあるのですが、
記載されているのがクラリス錠、塩酸バンコマイシン散、フロモックス錠、
アクロマイシンVカプセル、イスコチン錠、リファジンカプセル、サイクロセリンカプセル
の7種類。(順番もこのまま)
いやー…一般向け書籍で取り上げる抗菌薬としてはマニアックすぎませんかね。
2020年発行の本なのに、
免疫抑制剤の代表例として「サンディミュンカプセル」*1の記載もあったりと、
いろいろこの章は突っ込みどころがたくさんです。
個人的には液剤や点眼剤は冷蔵庫に入れるのが望ましい、と言い切ってしまうのも、
ちょっと待って!説明書みて!と言いたくなります。
一般向け書籍ではありますが、
くすりを知りたいときの最初の1冊としてはおすすめはできません。
植物関係のネタはとても豊富で読み応えがあります。
なので、薬剤師が天然物がらみのネタを仕入れたいときにおすすめです。
この本の著者は植物関係のおもしろそうな本を出しているので、
そちらを読んでみようと思います。
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*1:サンディミュンカプセルは2017年に販売中止が案内されている