本の紹介
「喘鳴や頭蓋の読み方は?」「頸部と頚部はどちらが正しいのか?」など,医療現場はもちろん,日常においても使用される用語や漢字の使い方に関する疑問.それらの疑問を解消するための根拠が,「あの先生がこう言っていたから」「パソコンで変換できたから」になっていないだろうか.本書では医学用語を使うためのできるかぎりの根拠を示し,さらに自分自身で解決するための具体的な実践例も紹介する.すっきりとした極論ではうまくいかない現実を直視するために,医学用語の基本から学んでいこう.
目次
第1章 はじめに
第2章 医学用語の前提となる日本語・漢字の知識
第3章 医学用語総論 「なんでもいいわけではないこと」
第4章 医学用語各論
第5章 これからの医学用語
この本の推しポイント
医療系の文章にかかわる人は必読!
雑記
突然ですが、
「嚥下」
って何て読みますか?
私も含め、薬剤師の方の多くが
「えんげ」
と読むのではないでしょうか。
「嚥下障害」をみたら「えんげしょうがい」ですよね。
さて、ここでお手元に国語辞典があれば引いてみてください。
辞典の種類にもよるかと思うのですが、
見出しが「えんか」になっているものがありませんか?
私の手元にある国語辞典2冊は「えんか」でした。
NHK放送文化研究所のサイトでも疑問として取り上げられており、
「どちらの読みも辞書に出ており、
間違いではありません。」
との回答が示されています。
「嚥(えん)下」の読み方は? | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所
私たちが普段当たり前のように使っている医学用語でも、
医療の現場を離れれば、はたまた診療科が変わるだけでも当たり前ではなくなる、
ということが本当に多くあります。
わざわざ医学用語を国語辞典で引かないですからね。
「えんか」なんて考えたことなかった。
ところでこの本の第4章では
医療系の文章を見るときに必ずぶち当たるであろう疑問、
例えば「頸部」と「頚部」はどちらをつかったらいいのか、
「掻痒」「搔痒」どっちなのか、
「癌」と「がん」はどう使い分けするのか、
などの疑問が丁寧に解説されています。
「癌」「がん」については
先に紹介した朝日新聞校閲センターの「日本語の奥深さを日々痛感しています」では、
常用外漢字だから「がん」に統一、と一刀両断されていました。
でも多くの医療関係者は「がん」は悪性腫瘍全体、「癌」は上皮性悪性腫瘍、
と使い分けていないでしょうか。
今回の「医学用語の考え方、使い方」では
「がん」と「癌」を使い分ける根拠はない、というスタンスをとっています。
使い分けるとする主張は単なる一意見であって、使い分けない人を責める根拠はない
という見解です。
「嚥下」の読みといい、「がん」「癌」の使い分けといい、
自分が習ったものだけが必ずしも真実ではない、
ということを気づかせてくれる良著です。
また医療系の文章に携わる人にぜひ読んでほしいのが
第3章の医学用語総論です。
医学用語は誰がどのように決めていて、それをどうやって使っていけばいいのか。
この章では医学用語集には大きく以下の4つの分類があるとして、
それぞれの説明がされています。
A:医学全体をカバーするもの(公的)
日本医学会医学用語辞典、文部科学省学術用語集医学編
B:医学全体をカバーするもの(企業等)
医学書院医学用語辞典、南山堂医学大辞典など
C:各分野をカバーするもの(各学会)
解剖学用語、産科婦人科学用語集・用語解説集など
D:各分野をカバーするもの(企業等)
解剖学辞典(朝倉書店)
解説の中で目を引くのが、
日本医学会各分科会の用語集の有無の一覧!
各学会の用語集の有無、書籍なのかWebなのか、更新年度(2021年時点)が
一覧になっています。
文章の表記で迷ったとき、どこの資料を拠り所にすればよいのか、
きっと手がかりになります。
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